9月の読書メーター
読んだ本の数:18
読んだページ数:7163
ナイス数:409

熟柿感想
轢き逃げ犯として服役中に出産、実子と離された子を想い、苦しみながら生きる女性の物語。前半は何とも辛い物語だが徐々に生きるため、会えない息子に遺すために実直に生きる姿に頁を繰る手が止まらなかった。終盤にかけ大きなうねりが出るなかで、物語としては選択肢が大きく開かれ、方向性は示されるものの、その後は読者に委ねられて終わるが、充分満足できる内容だった。ただ終盤の細部はやや駆け足で手仕舞った感がありその点は少し物足りなかった。タイトルの熟柿には、気長に時期が来るのを待つという意味があり含蓄のある言葉と思った。
読了日:09月30日 著者:佐藤 正午
罪の水際 (新潮文庫 シ 45-1)感想
訳者のおすすめがあり、このミステリの舞台となる、イングランドの砂漠とも言えるダンジネスの写真をネット観覧した。この風景のもとで、この素晴らしいミステリが展開されたのかと思うと感無量だった。倫理の問題はあるかもだけど個人的にはとても良かった。謎解きミステリとしても素晴らしい上に、その構成を崩さないまま、この最果ての地のような地域で暮らす人々の生活を描ききった良い作品。シリーズ4(5)作目での初訳という情報のみで読むのを躊躇していたが、全く問題なし。これをきっかけに前後の物語が読めることを真に願う。
読了日:09月27日 著者:ウィリアム・ショー
火山のふもとで感想
建築についてあまり詳しくない自分でもその魅力を感じ取れた。夏の家という避暑地に佇む建築事務所で名建築家の先生と共生する設計者たちの生活を丁寧に描れる。特に事件らしい事件はなく、避けられない運命に至る過程が端正かつ瑞々しいな文章で静かに語られていき、いつしか作品の虜になっている自分に気が付く。浅間山の鳴動する活動を背景に、あるときは不穏にあるときは悠久な様子を見せながら物語は進んでいく。コンペの行く先を最後まで見たかった気もするが、それはそれで別の小説になったのだと思う。後世に遺すべき素晴らしい小説と思う。
読了日:09月26日 著者:松家 仁之
17の鍵 (創元推理文庫)感想
ベルリンの壁崩壊からその後の社会を背景としたミステリは初めて読み大変楽しめた。主人公の悔やむべき過去と苦めの現在が交互に語られ、東ドイツの旧体制を下敷きに重めの展開であるが、地道な捜査から真相を追い詰めるスタイルは好きで、正統ミステリとして読み応えがあった。警察内にも非常な確執があり、人間関係がかなり錯綜するなかでのドラマは面白い。行方不明の妹や犯罪の全体像・もう一人の犯人?など謎がそこそこ残され、次作「19号室」もすぐ読みたくなるが、その気持ちを抑え、4部作の残りの2冊が早く出版されるのを期待している。
読了日:09月24日 著者:マルク・ラーベ,酒寄 進一
ハウスメイド (ハヤカワ・ミステリ文庫)感想
結構厚めだけど、あっという間に読めた。このスピード感と面白さはなかなか得られない。というか、きっとじっくり読んじゃいけない小説なんだろう。ところどころ「おいおい」感もあるが、まあエンタメ小説だから許してしまう。ありそうな展開ではあるけれど、その斜め上を行くところが良いのだと思う。ここでは書けないけど、最後の義母の一言は強烈でゾクゾクしてしまった。この展開だけで優秀作だと思う。
読了日:09月23日 著者:フリーダ・マクファデン
宙の復讐者感想
いわゆるリプレイもの。人類を滅ぼした異種族への復讐を目指す教練のなか、独裁者の真の姿を知りえた主人公が、あるべき未来の再構築に葛藤・奮闘する物語。クィアなどジェンダーの取扱いは今一つ効果的でなくしっくりこないし、最初のリプレイまでが詳細で、もたつき感を感じさせるかもしれないが、やり直し人生でも、前世の刷込みから脱却できてないところが新鮮。リプレイのお約束であるご都合主義もあるけれど、最後までしっかり読ませる推進力がある。まずは、オーソドックスなガジェットを活かした新世代SFとして良作と感じた、。
読了日:09月21日 著者:エミリー・テッシュ
ジェイムズ感想
今年の邦訳小説の話題作。ハックルベリーの物語を南北戦争開始時に小移動し逃亡奴隷側から正調で雄弁に語るなか、後半からは独自の展開を見せる。直前にトウェインの原作?を読んでたので、対比のイメージもできて楽しい読書だった。読みやすい一方で、全体をコンパクトにまとめた結果、原典から飛び出した後の駆け足感が強く、暴力を暴力で報復するなか、小説の完成度として少々物足りなかった。逃亡奴隷の物語は小説・映画に多く取り上げられているが、それらを超える感銘とまではいかなかった。とても良い小説とは思うけど。
読了日:09月16日 著者:パーシヴァル・エヴェレット
チンギス紀 十 星芒 (集英社文庫)感想
毎月刊行に読みが追いついたタイミングで、読み始めるまで少し間をあけた。登場人物の多さに、錆びついた記憶力では1か月もたず、少し積読貯めないと楽しめないと思ったから。今回も最初のエピソードで、え。誰?と一覧表を見ながら思い出したり。モンゴル帝国黎明期として、話は相変わらず面白い。モンゴル統一から金との開戦に向けた話がゆっくり展開される。今回は実母との慟哭の別れが胸を打つなかで、アインガの加入、マルガーシの冒険等新たな展開が飽きさせない。金にも好敵手の登場とあり、楽しみである。
読了日:09月15日 著者:北方 謙三
若きウェルテルの悩み (光文社古典新訳文庫 K-Aケ 3-3)感想
ウェルテルの初版ということだけど、改訂版を読んだのはそれこそ半世紀前なので、よくわからず新訳は読みやすいなという感想だけだった。クライマックスの直前まで書簡形式でもあり、ウェルテルの激情とロッテの不断の曖昧さと奇妙な三角関係において、成就しない運命にある恋への切実な叫びを感じた。死を選ぶ過程が詳細に描かれる終盤は全く記憶になかったが、ルポルタージュのような雰囲気で死に行く姿が描かれるのはちょっと怖い。昔は高校生の必読書だったけど、今はどうなんだろう。いろんな点で違和感がある。
読了日:09月12日 著者:ゲーテ
涙の箱感想
ハン・ガンの新訳は童話。想定や挿絵がいかにも美しい逸品。お話は、純粋な涙を流し続ける涙つぼを持つ女の子と涙を黒い箱に蒐集する男が出会い、涙を求める人への旅路を描く詩情あふれる話。ハンガンは詩人でもあるが、詩を読んでるようなしっとりとした幻想的な大人のための童話。本棚のどこかに表紙をみせて飾っておきたい。
読了日:09月10日 著者:ハン・ガン
誰でも、みんな知っている これは、アレだな感想
高橋さんがパーソナリティのNHKラジオの「飛ぶ教室」はすごく良くて、可能な限り聴いているが、このエッセイもその新書化と併せて息の長い連載。こちらはサンデー毎日なので文字だけど、ラジオの語り口と同様、面白いエッセイとなっている。これだけ長く続くとネタ探しも大変だと思うが、いつまでも読み続けたいエッセイ。
読了日:09月10日 著者:高橋 源一郎
笹まくら (新潮文庫)感想
丸谷才一さん初読みですが、認識を新たにし、すごくよかった。徴兵忌避した男の半生を過去と現在をモザイクのようにしたテクニカルな構成。実験的な匂いもするけど、有機的につながっていて、 文章の巧さとともに舌を巻く。併せて小説を中心に買い込んだので折に触れて読んでいきたい。エッセイも面白そうだけど、まずは小説からかな。
読了日:09月10日 著者:丸谷 才一
ハックルベリー・フィンの冒険(下) (光文社古典新訳文庫 Aト 4-3)感想
ジェイムズを読む前に読んでおこうと思って、まあ通過儀礼のようなものか。以前トムソーヤの冒険を読んだときに、トムの性格や行為が嫌いで、その続編であることからずっと積読になってた。ただ今回は、ハックとしてずっとまとも?な物語が展開するし、もちろん奴隷だったジムとの行脚がなかなか魅力だったりする。しかし終盤にかけて、トムがなぜか登場してきて、一気に物語の品格が下がるのはどうしたことか。アメリカの魂かなんか知らんけど差別と暴力と噓・狡猾に満ちた物語はやっぱり合わないなあ。どうなるジェイムズ。。。
読了日:09月09日 著者:マーク トウェイン
ハックルベリー・フィンの冒険(上) (光文社古典新訳文庫 Aト 4-2)感想
下巻にて
読了日:09月09日 著者:マーク トウェイン
ゲーテはすべてを言った感想
やっと読めた。済補(笑)。あー、面白かった。ゲーテをわかってなくても十分楽しめるし、全体の骨子を名言の出典探しに置き、蘊蓄、言葉遊び、文学論考など、言葉がらみの情報をふんだんに入れ、ある意味理想的な家族・友人間の知的なコミュニケーションのもと、家族愛から人類愛に発展する小説。芥川賞受賞でないと読めなかったので良かったけど、物語としてもよくまとまっており、安心しておすすめできる。よくこんな小説書けるものだと感心した。
読了日:09月05日 著者:鈴木 結生
未明の砦感想
Audible。ただ展開に最初入り込めず、間をおいて挑戦。途中からとても面白くなり、スカッとすることができた。弱者が強者を倒す王道物語だけど単純ではないところが良い。労災隠しや組合潰しなど設定上振り切れ感があり、クルマ世界企業のユシマは超絶ブラック企業で笑えるが、細かい点はあるあるだったりもする。労働法周りのうんちくも多く目で追うとしつこいかもだけど、耳で聴く分には気にならず、あらためて勉強になった。太田愛さんは相棒とかドラマ脚本の出身。面白かったので幻夏3部作もこの機会にそろえた。また読んでみたい。
読了日:09月03日 著者:太田 愛
フェアリー・テイル 下感想
下巻で本格展開、程よい長さで存分に楽しめた。キング仕様のおとぎ話は、剣と魔法より、武器で決着する殺戮の世界であり、銃の威力の簡単さに違和感を感じなくもないが、ハワード、バロウズ、ラヴクラフトの世界が融合したイメージ設定は面白く、奇をてらわない王道ストーリーが展開され、まあまあ抵抗感なく読めた。ハッピーエンドを公言することで、コロナ禍で沈んでいた世界に込められたキングの思いも十分汲み取れる。今を生きるわれわれに勇気を奮い立たせてくれる力強いおとぎ話。傑作でないけど十分心に残る。まあ図書館本にして正解だった。
読了日:09月02日 著者:スティーヴン・キング
ゴルフ場殺人事件(クリスティー文庫) (ハヤカワ文庫 クリスティー文庫 2)感想
すごく面白かった! 電子書籍で買い込んだクリスティ作品を予備知識なしで読んでるけれど、この陳腐なタイトル(笑)に反して、テクニカルな抒情ミステリとして傑作と思った。名脇役ヘイスティングスの色ボケや恋の行く末も最高だし、犯人当てミステリとしてのストーリー展開、お約束的仕掛けも効果抜群で全く色あせてない。初期作品としてそこまで知られていないような気がするけど、もっと多くの人に語られるべき作品と思った。原題はもっと洒落てるかと思ったら邦題そのまんまだった!他の煌めく作品名と比べすごいハンディを負ってる。  
読了日:09月02日 著者:アガサ・クリスティー

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